%e6%a8%aa%e9%a0%88%e8%b3%80%e5%b8%82 %e3%83%8f%e3%82%99%e3%83%8a%e3%83%bc0828 %e9%a7%85%e5%90%8d%e3%81%aa%e3%81%97

横須賀市の藤野議員が語る「命を守る政治」

2018.08.29

今年、全国の地方自治体で、横須賀市がLGBTQ+関連施策数トップであることが発表された。 同性パートナーシップ制度もまだ実現されていないこの街で、LGBTQ+関連施策をたったひとりで推し進めてきた議員がいる。横須賀市議の藤野英明さんだ。10年間、ゼロから提案を続け、ひとつずつ実現してきた彼に、その原動力が何だったのかお話を伺ってきた。

(インタビュアー:伊藤まり)

藤野:僕、実は20代のときに、10年間お付き合いした彼女を自死で亡くしているんです。幼い頃から僕はずっと孤独感が強く、10代のころも生きている意味が分からなくて毎日が辛かったのですが、高校時代にバンドでライブに明け暮れていた頃、彼女に出会って初めて生きる意味を感じられました。ずっと探していた自分の片割れを見つけた、救われた気がしました。

伊藤:その彼女を亡くされたのですか?

藤野:はい。彼女は、付き合って数か月後、統合失調症を発症しました。彼女の力になりたくて進路を変えて大学では臨床心理学を専攻したのですが、10年経ったある日、彼女は自殺してしまったのです。結局、僕は彼女の命を守れなかった。自分の片割れだと感じた大切な存在を失ってしまい、無力さや罪悪感にさいなまれて僕自身も精神疾患になりました。それが2002年のことでした。

伊藤: そんな経験をされたのですね …。

藤野:その悲しさと悔しさから、2003年に僕は政治家に転職しました。「命を守る」ためです。僕個人の力では彼女の命を守れなかった。けれど、政治が全力を尽くせば「命を守る」ことができるんです。だから、これまでの16年間、自殺対策、特に10代を自殺から守る為に議員として全力で取り組んできました。

伊藤:なるほど…。

藤野:全国の仲間たちと働きかけて2006年に国会で自殺対策基本法を成立させることができました。また横須賀市で提案して実現させてきた取り組みの中には、最初はいち自治体の取り組みに過ぎなかったものが、だんだん他の自治体にも飛び火して、今では国レベルで採用されているものもあります。真剣にいい仕組みを作って、その仕組みで人が元気になると知られれば、他の人たちも取り入れていってくれる。

伊藤:それが、LGBTQ+関連施策の取り組みにもつながっているということですね?

藤野:はい、そのとおりです。でも実は僕、特に「LGBTQ+のための活動をメインにしている」というつもりは全く無いんです。

伊藤:というと?

藤野:僕の使命は「命を守る」こと、それだけなんです。僕と彼女が10代のとき、本当に辛かったけれど2人のことを誰も助けてくれなかった。誰かが力になってくれたらといつも思っていました。

今も多くの10代が苦しんでいて、その中にはLGBTQ+の若者たちもたくさんいる。そして、あのときの僕たちと同じように、誰かが力になってくれたらと思っているかもしれない。ならば僕がその誰かにならなければいけない、そう思ってLGBTQ+関連施策も全力で取り組んできました。

伊藤:議会のなかでは具体的にどのようなことをしているのですか?

藤野:議会が開かれているときは、本会議でも委員会でもとにかく質問をしまくる。議会用語では質問と呼ぶんですが、実際は新たな提案や問題の追及をする機会が質問です。僕は横須賀市議会でただ1人だけ16年連続、毎回必ず本会議で質問をしている質問王なんですよ(笑)。たぶんこの記録はずっと破られません。

伊藤:16年間の「質問王」…すごいです…!

藤野:何故質問をしまくるかといえば、質問をすれば必ず行政は動くからです。直近の質問を例にあげると…例えば、パートナーシップ制度が存在しない街でも、生計を一つにしている同性カップル等は住民票を同一世帯で作れるし、国民健康保険にも一緒に入れます。生活保護も一緒に受けられる。けれどほとんどの人がこのことを知らない。そこで議会で質問したんです。その結果、3つとも可能だと市長が答弁したので、ホームページに載せて周知することもできたし、役所の職員もスムーズな対応ができるように勉強します。

伊藤:議会の期間以外のときはどんなことをしてるんですか?

藤野:LGBTQ+関連施策でいえば、毎日、当事者の方々の生の声を聴かせていただいて、ひたすら意見交換をしています。当事者団体の方々と一緒に市役所に要請書を出しにも行きました。

伊藤:SNSでもその様子を発信されていますよね。

藤野:はい。今年、横須賀市では3つの大きな取り組みをしています。パートナーシップ制度導入の検討と、男女共同参画推進条例に「性的な多様性」を明記する為の改正作業、そして人権施策推進指針(市役所職員の全ての行動の指針となるもの)の10年ぶりの改定作業です。

これに取り組むみんながLGBTQ+の専門知識がある訳ではないので、研修会などを通して正確な情報を共有するために働きかけています。

伊藤:地道な努力なのですね。

藤野:10年前、僕が初めて本会議でLGBTQ+関連施策の提案を質問したとき、差別的なひどいヤジが飛ばされて思わず怒鳴り返したことがありました。でも今では市議会の皆さんが取り組みを応援してくれています。地道に研修や質問を繰り返すことで、今ではだいぶ空気が変わりました。保守的とされる横須賀市で、でもです。

伊藤:全国の自治体で広まっているパートナーシップ制度についてはどうお考えですか?

藤野:実は僕、そもそも結婚制度自体に否定的なんです。歴史をふりかえれば、税金を集めるにしても戦争のときの徴兵にしても、国民を管理しやすくするためにできた制度ですからね。今の時代に全く合っていないと思っています。

伊藤:確かに、そういう側面を忘れがちですよね。

藤野:はい。とはいえ、現在の社会では婚姻は「信用券」のように使われる場面もあるんですよね。だから、結婚できないことで当事者が直面する問題も多い。

伊藤:なるほど。確かに、婚姻関係にあるかどうかで、異性カップルであっても保障される権利が大きく違います。

藤野:長年連れ添ったパートナーの命の危機なのに病院に関係性をいちいち説明しなければならない、看取りに立ち会えないといった悲しい話をお聞きします。こんな馬鹿らしいことが許されちゃいけない。僕は結婚制度自体に否定的な考えを持っていますが、こうした命の危機のような差し迫った事態での馬鹿らしいやりとりをなくすための応急処置としては、必要だと思います。だからこそ同性婚も実現すべきなのです。

伊藤:しない自由があるためには、する自由がないとだめですよね。

藤野:全くそのとおりだと思います。あと、どうしてもお伝えしたいのは、LGBTQ+の方々が結婚制度から排除されていることは、当事者の人権や尊厳を奪っているだけではなく、たくさんの子どもたちの命にも関わることでもあるということです。 日本にはいろんな事情で生みの親のもとで暮らすことができない子どもたちがたくさんいます。なのに里親制度や特別養子縁組はまだまだ一般的じゃない。

一方で、子どもと暮らしたいと願っているLGBTQ+の方々はたくさんいらっしゃる。けれど、同姓パートナーも里親になれると知ってる方は少ないし、特別養子縁組はそもそも認められていません。子どもたちと暮らせない親たち、子どもたちと暮らしたいパートナーたち、それぞれの想いを汲みとることと、子どもの命を守る為にも今の仕組みは変えなければならない。

伊藤:いろんな状況の人たちをうまくマッチングすることで、家庭で成長できる子どもも増えるということですね。

藤野:はい。その過渡期の制度としてパートナーシップ制度を作ることで、社会は少しでも変わるかもしれません。

伊藤:実際に制度を作るとしたら、どのような制度を考えていますか?

藤野:まず、渋谷区のように申請にお金がかかりすぎる制度にはしたくないです。目指しているのは札幌型ですね。

伊藤:札幌は、異性間でもパートナーシップが結べたり、証明書の携帯カードを発行したりと、利用する人のニーズに寄り添おうというのが伝わってきますよね。

藤野:おっしゃるとおりです。ただやはり、パートナーシップ制度は法律で定められた結婚ではないので残念ながら今のままだと特別養子縁組は難しいんです。だから、横須賀独自のパートナーシップ制度が叶うのであれば、国に特区申請をしてでも特別養子縁組ができるようにしたいですね。

現実問題としてパートナーシップ制度に法的なメリットはほぼありません。けれどもパートナーシップ制度ができることを待ち望んでいる人たちのたくさんの声をお聴きしてきました。その方々のお顔がいつも心に浮かぶので、必ず横須賀市でもパートナーシップ制度を導入します。

伊藤:実行力の強い条例ではできないのでしょうか?

藤野:毎年、横須賀市議会では議員提案で条例を積極的に作っていますが、1本の条例を作るのに最低でも1年間はかかってしまいます。僕の残された任期はあと7カ月しかありません(来年4月末まで)。 昨年7月に就任した新市長とは同じ考えなので、パートナーシップ制度は市長の裁量で作ることができる要綱で進めるのが良いと考えています。

伊藤:市のトップも前向きなのは心強いですね。

藤野:ところで、条例を作らなくても実現できることはたくさんあるんですよ。病院に直接話に行って、同性パートナーが急病や事故で救急搬送されたときの病状説明や手術同意書への署名ができることを市立病院の指針に明文化しました。これは全国で初めてのことです。「命を守る」にはスピードも大切です。条例で通さなくても、そうやって直接できることを増やす道もあると思うんです。

伊藤:同性カップルは住む場所を探すのにも苦労するという状況も、とても問題ですよね。

藤野:はい、ですから、LGBTQ+の方が安心して利用できる施設がひと目でわかるように、正しい知識を持つ不動産店にステッカーを作って配る、という取り組みが新たに今年の予算に盛り込まれました。「ここのスタッフはLGBTQ+研修を受けています」ということを示すのです。そしてこれを更に医療機関にも広めたいと、医師会の方とも話しています。

伊藤:ハラルフード(ムスリムの戒律に沿った食事のこと)の認証マークみたいですね。

藤野:そうです。こういう取り組みをどんどん他のお店やホテルにまで広げていきたいです。

伊藤:民間と行政のいい協力関係が築けているのですね。

藤野:当事者の方々や企業の方々など、民間からどんどんアイデアが出て、それを僕が議会で質問して、どんどん実行されていきます。民間と行政では、意思決定の早さが高速道路と一般道の砂利道ぐらい差があるので民間のアイディアの多さとスピード感に助けられています(笑)

伊藤:(笑) どうして行政はそういうスピードが出せないのでしょう?

藤野:それは本当に悪気はないのですが、行政では税金を使うので、不公平があってはいけない…と考えると、どうしても意思決定が遅くなってしまうのですね。でも、このスピード感だと人が死んでしまうんですよ。

伊藤:政治・行政・市民それぞれ強みを活かしていけたら、ということですね。埋まっている種の芽を出させて、刈り取ることは私たち民間にもできると思います。だからこそ、行政にはたくさん種を蒔いてもらいたいのと、そもそも畑の場所を広く作ってもらいたいですね。

藤野:そうですね。がんばります。

藤野:僕は、”性的マイノリティ”や”LGBT”という言葉を使うのも、本当はいやなんです。様々なセクシュアリティの人と出会う中で、マイノリティなのではなく、誰もがグラデーションであって、セクシュアルバラエティだということに気づいたので。だけど、今は実際にまだ差別があって、権利の差がある状況で、とりあえずくくりを作らねばならないというフェーズなのも事実です。

伊藤:マイノリティって、日本語だと少数者って訳されたりしますけど、本当は数の問題じゃなくて、社会的に弱い立場に置かれているという意味ですよね。LGBTQ+の方は、数としては少ないかもしれないけど、権利がきちんと保障されたらマイノリティじゃなくなる可能性はあるし、そうしなければならないと思います。

藤野:本当にそう思います。パワーレスを無くさなきゃいけない。パワーレスであることは命を奪いますから。何がテーマであっても「命を守る」。そこを目指さなきゃいけないと思ってます。

伊藤:命を守る、というテーマから藤野さんが逸れることはないのですね。

藤野:はい、ありません。10代の頃の自分を客観的に見たら、亡くなった彼女より僕の方が自殺する可能性は高かったかもしれない。そんな僕の孤独とか闇を、彼女が持って行ってくれたのかなと感じるんです。彼女のおかげで自殺対策基本法ができた、今でもそう思ってます。
とにかく命を守りたい。これは、亡くなった彼女の弔い合戦なんです。

「命を守る」ために、議会、学校、民間と、あらゆるところに足を運ぶ藤野議員。 彼がしているのは、とにかくいい仕組みを作って、それを伝えて、飛び火させることだけだった。彼が守る命に、セクシュアリティやジェンダーはもちろん関係がなかった。LGBTQ+だけでなく、誰もが命を奪われない、生きやすい社会にすること。それは、その火を社会の隅々まで移していくことによって、可能なのではないだろうか?

FOR YOU

MORE