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自分のセクシュアリティのまま「役」を演じる|演劇集団LGBTIインタビュー

2018.09.14

大きな拍手に包まれて、舞台「毛皮人間~吊られ者たちの童話〜」千秋楽は幕を閉じた。

この舞台に立つ「演劇集団LGBTI東京」の劇団員はみな、LGBTQ+の当事者である。

トランスジェンダーの男性はもちろん男性役を演じるし、登場人物がどういった相手を愛するのかも、当然異性愛が前提ではない。性別を感じさせない魅力的なキャラクターが出てきたかと思えば、いわゆる"界隈"の用語を交えたギャグなんかも飛び出す。

日本のドラマやハリウッドであっても、たとえばトランスジェンダーの役を演じるのは必ずしもトランスジェンダーの役者ではないし、逆も然りである。異性愛者が同性愛者の、同性愛者が異性愛者の役を演じることもあるが、ここ「演劇集団LGBTI東京」に所属する役者は、"性の在り方"について自分とは違う誰かを演じる必要はない。彼らは彼らの性の在り方のまま、その役を演じていくのだ。

時はさかのぼって、公演の3日前。「実際にどんな思いを持って、演劇をしているのだろう」と気になったので、立ち上げから9年間劇団を支えてきた代表の小住 優利子さん、そして今回の新人公演「毛皮人間~吊られ者たちの童話〜」の主役を務めるCONANさんに話を聞いてきた。

(インタビュアー:合田 文)

合田:ぶっちゃけ普通の劇団だと、当事者は自分を表現しにくいところがあるんでしょうか?

小住:演劇を作り上げていく上で「ここ、オネエ系のキャラが出てきたらウケるんじゃないか」とか「このふたりがレズビアンだったらおもしろい」とか、そういう感覚でLGBTQ+が出てくることがあるんですけど、当事者からしたらそういう"イロモノ"扱いっておもしろくないし、不自然じゃないですか。

合田:わかります。

小住:だからうちの劇団でやる演目では、脚本の中でセクシュアリティをあえて言及しないんです。役を演じる人の表現に任せる。

合田:「この登場人物は同性愛者」、「この登場人物はトランスジェンダー」などの設定は、役者さん本人の性の在り方に委ねられるということですね。

小住:そうなんです。だから、うちの劇団がやるのは、LGBTQ+っぽさを全面に出した演目ではないんですよ。設定は役者の在り方や表現によって変わってくるから、登場人物も「自分はゲイだからどうこう」とか「身体と心の性の不一致に悩んでいて…」みたいな設定をもともとしているわけではなくて、シンプルにひとりひとりが自身のセクシュアリティとは関係のないところで葛藤したり、成長したり…そういう物語を演じています。

合田:LGBTQ+であることがストーリーの主軸になるわけじゃないんだ…。なるほど。確かに、多くの当事者にとっても、LGBTQ+であることはその人のメインのパーソナリティではなくて、持っている個性のひとつに過ぎないですもんね。

小住:そうですね。劇団員たちは、もらった役を自分のセクシュアリティや個性を生かして演じていくんですが、そうすると脚本に込められた以上のことが表されていったり。

合田:興味深いですね。たとえば?

小住:たとえば、子どもができないカップルの会話劇があるとして、これを男女の役者が演じていたら、見る側は何も説明がなくても「ふたりのうち、どちらかが不妊症なのかな」と思いますよね。でも、これを女性の役者ふたりが演じたらどうなると思いますか?

合田:同性同士のカップルで子どもを持とうとしているから、単なる不妊症とかではなく、様々な理由が思いつきますね。

小住:そういうことなんです。脚本の台詞で「なぜ子どもができないか」を書かなくても、役者の表現によって、見る側は脚本以上の捉え方を自由にしてくれます。

(写真左:小住 優利子、写真右:CONAN)

合田:「毛皮人間~吊られ者たちの童話〜」は9年前の旗揚げ公演の最初の演目でもありますよね。どんなお話なのか、少しご紹介いただいてもいいですか?

小住:魔女の呪いによって毛むくじゃらで生まれてきてしまった人間の話です。主人公は森の奥で身を潜めて生活しているんですが、18歳になり、呪いを解くための旅に出かけることになるんです。そしてその道中で出会った様々な人たちと過ごしながら自分の生き方を見つけていく。

合田:その毛むくじゃらの主人公って、なんだかLGBTQ+の当事者のようですよね。

小住:まさに、そうなんです。「自分が変なんじゃないか」と世間からの疎外感や孤独を感じ、次第に自分を受け入れて成長していくメルフォーゼの姿には、当事者の多くが自分の思春期のころを思い出して重ねずにはいられない。

合田:LGBTQ+の多くが自分の異質性に向き合わなければならなくなったときに、こう、つらい気持ちになったり漠然と将来が不安になったりしますもんね…。この演目を見て主人公と自分を重ねることによって、もう一度自分に向き合うことなるかもしれない。

小住:そうですね。LGBTQ+についてが主軸ではない演目ばかりなので、「もっと全面にセクシュアリティのこと押し出してよ」とお客様から言われることもあるんですけれど、それは必要ないと思っています。当事者ではない人が見ても楽しいし、当事者が見たら自分を重ねることができる。そんな演劇をやりたいですね。

合田:でも、9年もの間、劇団をまとめるのは大変だったと思います。

小住:昔は、恋愛関係とか…ね。

合田:そうなんだ(笑)。普通の劇団と変わらないですね。

小住:はい。吊り橋効果なんですかね、劇団員同士が助け合って、そのときだけ好きになってしまうみたいなこともありましたね。基本的にうちの劇団は恋愛禁止です(笑)。

合田:アイドルみたいだ…。

小住:私はお付き合いしてきた人にFtM(身体的には女性として生まれたが、性自認が男性)が多かったので、FtMの劇団員に優しくすると「お前、あいつのこと好きなんだろ」とからかわれたり(笑)。

合田:青春みたいだ…。

小住:(笑)。でも、「演劇集団LGBTI東京」はいわゆる"LGBTサークル"ではないし、まじめに演劇をするために集まっているので、これからも真摯に演劇に向き合っていきます。

合田:今回の新人公演で主演を務められるCONANさん。もともと演劇をされていたんですか?

CONAN :いえ、全く(笑)。大手の舞台を見に行くくらいしか、演劇には触れてこなかったんです。

合田:そうだったんですね。ではなぜ?

CONAN :自分がXジェンダー(出生時に割り当てられた女性・男性の性別のいずれでもないという性別の立場をとる)であることを周りにカミングアウトし始めたときに劇団のTwitterをたまたま見つけて、もっと自分を外に出していきたいという思いから、すぐにダイレクトメッセージで「自分も演劇がしたいです!」と応募しました。

合田:ビビっと来たんですね。

CONAN :そうかもしれません(笑)。稽古は大変ですが、舞台が終わった瞬間の達成感はたまらなくて、「ああ、このためにやっていたんだな」と思えます。

合田:主人公のメルフォーゼのことは、どんな思いで演じられますか?

CONAN :台本を読んだときに「私がやらなきゃ、誰がやるのこれ」と思ったんです。私自身、自分のセクシュアリティなどで悩んで高校は通信に通っていたんですけど、バイトばっかりしていたら「性別関係なく働けるところもあるんだな」と思うようになって。それから自分を外に出していけるようになったんです。主人公のメルフォーゼも、18歳まで閉鎖的なところで暮らしているのですが、それから外の世界に出てたくさんのことを学んでいきます。だから自分の人生と重ねてしまって、主役に立候補しました。

合田:見せ場を教えてください。

CONAN :お母さんとのシーンですかね。主人公はお母さんと生き別れになっているんですけど、自分がなぜ、どういう経緯でこんな風に毛むくじゃらで生まれてきたのか知らないまま育ってしまう。お母さんの魂と会話するシーンでは「あなたを産んでよかった」と言われる場面があり、毛むくじゃらで変わり者の主人公に、多くの人が自分を重ねて泣けるんじゃないかな。

合田:「演劇集団LGBTI東京」以外の方とお芝居をされることもあるとお聞きしましたが、やっぱり現場の雰囲気は違いますか?

CONAN :私がLGBTQ+であること自体はラフに受け入れてくれたんですけど、あだ名が"クソレズ"だったんですよね(笑)。

合田:えっ!?

CONAN :悪気はないんですよ(笑)。そういうコミュニケーションで仲良くなろうとしてくれたんだと思うし、私もふざけて対抗していたんですけど「まだまだ世間的には理解されていないんだな」と感じましたね。

小住:"LGBT"という言葉はわかるけど、とかね。

合田:ああ…。CONANさんはXジェンダーだから、そもそも"レズ"ではないんですけどね…みたいな。

CONAN :そうなんですよね(笑)。でも、いちいち言葉で説明するのも面倒だな、と思って。

小住:「LGBTQ+の人たちが、ありのままの姿で役者をやれる時代になってほしい」という想いでこの劇団を引っ張ってきましたが、それと同時に「LGBTQ+について知らない人たちにも、もっと知ってほしい」「当たり前に当事者が身近にいるんだよ」っていうことを伝えていきたいんです。それには言葉で説明するより、見てもらったほうがはやいかなって、そう思っています。




インタビューの3日後、私は客席で舞台の幕が開くのを待っていた。

「演劇集団LGBTI東京」の名のもとに演技をするということは、劇団員にとってすなわちカミングアウトを意味する。

しかし小住さんは「私たちは、誰にでも見てもらえる標本のようになりたい」と語ってくれた。もちろん標本になるのは、勇気がいる。バッシングや好奇の目で見られる対象になるかもしれない。

それでも、劇団に集まった皆が「自分のセクシュアリティのまま役を演じたい」「当事者に共感され、当事者じゃない人にも楽しんでほしい」そんな思いで、舞台を作り上げているのだ。

どんな人が出てきて、どんな役を演じるのだろう。

間もなく、舞台の幕が開く。

私は彼女たちのインタビューを思い出しながら、照明が完全に落ちた暗闇の中に意識を溶け込ませていった。



演劇集団LGBTI東京

(撮影 : 星野 泰晴

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