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LGBTQ+と自我同一性|臨床心理士KANAが語る

2018.09.28

72%。これはPalette編集部が独自に調査したアンケートで「自分は精神的に不健康だと感じる」と答えた人の割合だ。

アンケートはSNSを利用した簡易なものではあるが、「LGBTQ+に当てはまる」と感じる人のうち7割以上の人が自分自身を精神的に不健康だと感じているということがわかった。

この数字を「多い」と言い切ることはできない。一方で、10人に7人が「精神的に不健康」と感じていることにPalette編集部が不安を覚えたのも事実だ。

そこで今回私たちは、急遽都内の病院に勤務する臨床心理士KANAさんにお話を伺った。この原因はどこにあるのか。この不健康な状態を解消するために必要なこととは。彼女と話をする中で見えてきたことを紹介したい。

(対談:臨床心理士 KANA×Palette編集部 合田、ライター:中野 里穂)

合田 : 臨床心理士として勤務されているKANAさんに、まずはPalette編集部がツイッターで独自におこなった調査を見ていただきたいのですが良いでしょうか?

KANA : もちろんです。どんな調査ですか?

合田 : LGBTQ+に当てはまる人に向けて、「自分自身を精神的に不健康だと思いますか」というアンケートをとったんです。ツイッター上でのアンケートなので、あくまでも参考程度の数値になるのですが…集まった約700票のうち「強くそう感じる」と答えた人が35%、「そう感じる」と答えた人が37%いたんですよね。

KANA : うーん…。

合田 : つまり、程度の差はありますが「自分は精神的に不健康だと感じる」と思っている人が7割以上いたことになるんです。

KANA : なるほど…そんな結果が出ていたとは…。よりそいホットラインについてご存知ですか?

合田 : もちろんです。電話相談窓口のことですよね。

KANA : そうです。よりそいホットラインには、1年間で1100万件の電話があるそうです。この数字を聞くと、LGBTQ+に限らず、日本には悩みや苦しみを抱えていることが多いということがわかりますよね。

その中にセクシュアルマイノリティ回線というものがあるのですが、数ある専用回線の中でも特に「死にたい気持ち」を語る相談者が多いそうです。実際にLGBTQ+の相談者の3人に1人が「死にたい気持ち」を相談しているらしいです。

合田 : 相談窓口に電話をしてくる人も、悩んでいる人のうちの一握りですよね。そう考えると、苦しんでいる人がどれだけ多いか想像できるな…。わかっていたつもりだったけど、新ためて数字を聞くとショック…。

KANA : もちろん、当事者であってもセクシュアリティに悩むことなく前向きに生きている人もたくさんいます。それでも、周りに言えずにいのちの電話をかける人がたくさんいるのもまた事実なんですよね。

合田 : 苦しんでいる人、精神的に不健康だと感じている人がたくさんいることはわかりました。でも、その原因ってどこにあるんでしょうか?

KANA : 質問に質問で返してしまい申し訳ないのですが…「自我同一性」という言葉はご存知でしょうか?

合田 : 高校1年のときに教科書で読みました!でも、それっきりその言葉には触れてきていないような気がします。どういう意味かと聞かれても…。

KANA : 自我同一性は、アイデンティティと同じ意味の言葉なんですが、「自分が自分であるという実感」を指すものです。

合田 : 自我同一性の問題がLGBTQ+と関係があるんですか?なんだか難しい話になってきたような気がするんですが…。

KANA : 関係あるのではないか、と私は考えています。実は、過去に自我同一性についての研究をおこなったことがあり、その研究にはLGBTQ+の当事者である方も多くいらっしゃいました。結果を見てみると、シスヘテロ(性違和のない異性愛者)の人に比べて、当事者の人たちは自我同一性尺度の点数がかなり低く出たんです。

合田 : ジガドウイツセイシャクド?ってなんですか?

難しそうな言葉に困惑する合田

KANA : 自我同一性尺度というものは、簡単に言うとアイデンティティがどれくらい形成されているかというテストです。つまりLGBTQ+の当事者には「私は私である」という概念がうまく形成されていない人が多いのではないか、という1つの仮説を考える結果が見えてきたのです。

合田 : 自我同一性がないとどうなってしまうんでしょう?

KANA : 自我同一性がしっかりと確立されていれば「どんな自分でも自分だ」と思うことができるんです。だから、悲しいことがあったときにも「悲しんでいるのも私だ」と、自分自身を受容することができます。確立されていないと、ポジティブな自分とネガティブな自分がバラバラに存在してしまう。

合田 : なるほど…。それで、セクシュアリティについての悩みと自我同一性ってなんの関係があるんですか?

KANA : いわゆる"ストレート"の人は、好きな相手が異性であることに疑問や悩みを抱かずに成長のステップを踏むことができますよね。一方で、自分の性別や性的指向にゆらぎがあったり、打ち明けられる人がいなかったりした場合、セクシュアリティの問題で立ち止まってしまう可能性があります。 ストレートの人が人を好きになって、お付き合いをして…とステップを踏んでいく一方で、当事者は「私の性ってなんなんだろう?」「人と違うんじゃないか?」というところでずっと立ち止まってしまう。だからこそアイデンティティ形成の上で必要な「自分って何者なんだろう?」という問いを1人で抱え込んで、苦しんでいる人って多いと思うんです。

合田 : 自我同一性がうまく育たない原因は、セクシュアリティに関わることだけではないですよね。

KANA : もちろん。家庭環境、人間関係などさまざまなものが要因になりえます。LGBTQ+の当事者の中にも、ご自身でしっかりとアイデンティティを獲得する人もいらっしゃいます。自分の好きなもの、好きなことがアイデンティティになることもあります。

また一方で、"LGBTQ+であること"がアイデンティティのすべてになってしまう場合もあります。

合田 : というと?

KANA : 今の日本には、LGBTQ+のロールモデルになる人はあまりいないじゃないですか。

合田 : たしかにそうですね。人が生まれてから初めて目にするロールモデルって両親で、両親って多くの場合がシスヘテロだし…。両親と比べて自分は変かもって思って自分を認めてあげられない人もいそう。

KANA : そうなんです。だからこそ、「自分がLGBTQ+のロールモデルになろう!」という意思を持つ人も出てくる。それ自体は素敵な志だと思うんですが、本来はアイデンティティの"一部"であるはずのセクシュアリティがアイデンティティの"全部"になってしまうと、"LGBTQ+である"という囲いを自ら作ってしまうことになりますよね。

「セクシュアリティの違いなんてどうでも良い」と思える世界を目指したいはずなのに、くくりをつくることでより一層違いが際立つようになってしまいます。

合田 : 確かにそうですね。そもそもLGBTQ+という括りもある種の差別化ですもんね。いろんなセクシュアリティがあっても良いという社会を作ることで、次の世代が自己肯定感、ひいては自我同一性を獲得しやすくなるはずなのに、逆にそれを難しくしてしまう可能性もある。

KANA : その通りです。

合田 : LGBTQ+がアイデンティティのすべてになってしまうと、メディアなどでLGBTQ+の存在が否定的に取り上げられたときに自分自身の全てが否定された気持ちになってしまう危険性も考えられますよね。

KANA : そうですね。少しずつ社会を変えることも、周囲の人からの理解を得ることももちろん大切なこと。けれどそれと同じくらい、"LGBTQ+であることを特別なことと捉えすぎない"という当事者の姿勢も大切なんです。セクシュアリティなんて関係なく、その人は特別であるべきだから。

KANA : 先ほどお伝えしたように、"LGBTQ+である"ことをアイデンティティのすべてにしない、というのはとても大切なことです。しかし、そのために社会が変わらなければならないことが多くあるのも現実です。教科書に載ったとしても、浸透するかどうかなんてわからないじゃないですか。だからこそPaletteのように分かりやすく、多くの年代に拡散できるツールは本当に必要だと思います。

合田 : 当事者以外については何かあるでしょうか。

KANA : あとは臨床心理士などの医療従事者が、もっとセクシュアリティについての勉強をすべきだと思いますね。資格取得のための講義の項目にLGBTQ+支援の内容が盛り込まれるようになってきてはいますが、講義レベルの知識では不十分な場合もあります。本当の意味でセクシュアリティを理解することが、悩みを持って来てくれている人たちに対する私たちの責任だと思っています。

合田 : 実際に、仕事する中でセクシュアリティに関する相談をされることもありますか?

KANA : 詳細は伏せますが、あります。誰にも言えないけれど、KANAさんにだけ…と話をしてくれることもありますから。当事者にとって、気軽に相談ができる場所は絶対に必要です。繰り返しになりますが、そのためには、相談を受ける立場である私たちがしっかりと理解していなければいけないですよね。

凛とした表情とは裏腹に、柔らかな口調で語ってくれたKANAさん。その言葉の中には、当事者の悩みや苦しみに寄り添う優しさと、「悩みながらも変わっていこう」という強いメッセージが含まれていた。

LGBTQ+がいまだ"マイノリティ"として扱われる現在の日本で、悩み、傷つく瞬間も多くあるかもしれない。そんなとき、気軽に相談できる場所があることを思い出せるようにしたい。私たちのセクシュアリティはアイデンティティの"すべて"ではなく"一部"にすぎず、アイデンティティはさまざまな人とのつながりの中で確立されていくものだ、ということも。

(撮影:漆原 未代

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