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あきらめずに火を灯し続けること。学校で多様性を伝えるほっしーの横顔

2018.11.27

「ほっしー」こと、桐朋小学校の星野俊樹先生は、多様性教育の実践をしている小学校教員だ。

彼の教育実践は「あの日の僕や君を救いたかった『生と性』を小学生に教えた担任の2年間」(Buzzfeed)「学校で伝える多様な性」(Palette)で紹介され、大きな反響を呼んだ。特にBuzzfeedの記事で、ほうきでエアギターをしている彼の姿と実践は、多くの人が抱いている「学校の先生像」を変えるインパクトがあったのではないだろうか。ほっしーに会ってみたい。ほっしーという人をもっと知りたい。そんな思いから実現した今回の取材。ほっしーの実践だけでなく、彼を多様性教育へ突き動かす、教育者としての核にも迫った。

(インタビュアー:今井 慧)

今井:今日はお会いできてうれしいです。記事を読んで、子どもの頃に星野先生の授業を受けていたら、そのあとの人生がどれだけ生きやすくなるだろうって思いました。

星野:それはうれしいです。ありがとうございます。あと、先生はつけずにほっしーでいいんで(笑)。

今井:じゃあ、ほっしーで(笑)。ほっしーの実践は「生と性の授業」として記事内で紹介され、子どもたちの反応もおおむね好意的だったと書かれていました。でもぶっちゃけ、そうじゃない子もいたりしたんですか?

星野:そりゃいましたよ(笑)。授業の最後に、子どもたちが学習の振り返りを書くんですけど、「こんだけ気合い入れて授業したのに、振り返りがこれ?」みたいな塩反応の子どもたちもいたし。でも、それはそれでいいんです。種まきと一緒で、その子が成長し、自分の人生の中で多様性にまつわる問題にぶち当たった時に、「そういえば小学校のときにそういう勉強したな」と思い出してくれたらいい。その時になって初めて問題意識を持つ場合もあるから。そういう意味で、問題意識の芽生えのタイミングは人それぞれなんです。その芽生えを待つ辛抱強さは教員にとって大事で、そこは長い目でみるべきなのかなと。

今井:でも、多様性教育の実践って結構ハードル高いですよね。

星野:そうですね。そこは同僚の理解と協力があったからこそだと思います。僕は今、41才で未婚なわけですが、教員になってから、どの学校でも毎年子どもたちから、ほっしーは結婚しているのか、子どもはいるのか、なぜ結婚しないのか、今後結婚する予定はあるのか、なぜ彼女がいないのかと聞かれ続けているんですね(笑)。「余計なお世話だよ」と苦笑いしながら、子どもにさり気なく「そういうことってお家の人が言っているの?」と聞くと、「うん!ほっしーに聞いとけって親に言われた!」と無邪気に言われる場合も多々あったりして(笑)。あと、今の職場ではないですが「結婚して子どもをもったら教員として一人前だから早く結婚しなさい」ということは以前働いていた学校ではよく言われました。世の中には色々な事情があって結婚しなかったりできなかったり、子どもを持たなかったり持てなかったりする人たちがいることに考えが及ばない人も、まだまだいるんだろうなと思います。

今井:僕も子どもたちに「結婚してるの?」って聞かれたりするなあ…。

星野:いちいち答えるの面倒くさいよね(笑)。だから、そういう自分の生きづらさを同僚に打ち明け、「正直しんどい(泣)」と弱音を吐いたことがあったんです。そしたらその同僚が、「多様性に関する教育実践を学校でやってみましょう」と言ってくれたんです。そしてその翌年、その先生と一緒に学年を組んで「生と性の授業」をスタートすることになりました。僕の場合、弱音を吐くことが実践を始める一つのきっかけになったんです。弱音、吐いてみるもんです。"男らしく"ないかもしれないけど(笑)。

今井:今年は1年生の担任ですが、多様性教育の取り組みとしてどのようなことをやられていますか。

星野:保護者へのアプローチを重点的に行っています。明治大学教授の斎藤孝氏が提唱している「偏愛マップ」というコミュニケーションツールを親御さんたちに保護者会で体験してもらいました。偏愛マップは、とにかく自分の好きなものを一枚の紙に書きまくったものなんですけど、最初の保護者会で親御さんたちに偏愛マップを書いてもらって自己紹介しあいました。偏愛マップには、自分のマニアックな部分、こだわりもどんどん書いていいんです。僕も書いて保護者たちに自己紹介しました。

ほっしーの偏愛マップ

ほっしーの偏愛マップ

今井:あ、僕もクリストファー・ノーラン監督の映画好きです(笑)。

星野:お〜、気が合うねえ(笑)。偏愛マップを使うと、その人を形作る多様な要素が可視化されます。だから、親対親、親対先生という関係に広がりが生まれるんです。親である自分だけでなく、趣味人や生活人としての自分も見せて相手とつながることができる。改めて、人と人は"親"や"先生"といったラベルだけでつながるわけではなく、その人の"趣味"、"関心"、"パーソナリティ"といった要素でつながりあうということに気づけるんです。

今井:単に自己紹介するより、お互いをよく知れる。おもしろいですね。

星野:偏愛マップを使って、保護者たちの多様性への認識を変えると、LGBTというイシューが出てきても「LGBTは私と違う人間だ」ではなく、それが個人の一要素にすぎないと捉えられるようになると思うんです。多様性とは、"セクシュアリティ"、"国籍"、"性別"、"障害"、"人種"といったラベルの多様さだけを意味するわけではないですよね。偏愛マップを用いて、僕は保護者たちに「あなたは"父"や"母"というラベルのみで語り得ない、多様な側面をもつ存在なのだ」と伝えたいんです。

今井:たしかに。一言で保護者と言っても、親以外の面も当然ありますしね。

星野:そうなんです。実はBuzzfeedの記事に対して一番反応があったのは、当事者層と思いきや、子育てをしている30〜40代の既婚女性たちでした。僕の実践報告を聞きにいらっしゃる方々もその世代の既婚女性が多いんです。彼女たちの反応からは、社会が要求する"良き母"や"良き妻"という役割や期待に対して、苛立ちやしんどさを抱えていることが見てとれました。彼女たちも「ふつう」に苦しんでいる。もしジェンダーロールの規範が母親たちを疲弊させ、子育てに負の影響を与えているのであれば、彼女たちが"母"であるがゆえに生じる生きづらさを相対化して理解するための機会を設ける必要があると思ったんです。  そういう事情もあり、親御さん同士が"母"や"父"以外の側面を互いにもった存在であることを実感してもらうために偏愛マップによるワークを保護者会で行いました。もし親御さんたちが、自身の生きづらさをジェンダー的な視点で自覚できれば、学校での多様性教育はもっとやりやすくなるだけでなく、その親御さん自身の子育ても楽になると思うんです。

今井:ほっしーが教師として日々意識していることは何ですか?

星野何を伝えるかより、どう伝えるかかな。自分のあり方、背中を見せるというか。夏休み前、ある男の子のお母さんに「うちの子、プリキュアが好きなんですけど、クラスでそれを言うとバカにされるかもしれないから言えないって言ってるんです」と相談されたんです。そのときに僕がプリキュアに詳しくなって、子どもたちの前で「プリキュア大好き!」って言えるといいんだろうなと思って夏休みにプリキュアを見て勉強しました。

今井:え!プリキュアを勉強したんですか?

星野:そう(笑)。2学期が始まって「僕、プリキュア大好きなんだ〜」って子どもたちに言ったら、女の子たちが「ほっしー、私たちとプリキュアごっこやろう」って言うわけです。その子たちと一緒ににプリキュアごっこをして遊びました。僕はキュアショコラ役で(笑)。そういう姿を子どもたちに見せることで、男でもプリキュア好きなのはアリなんだということを子どもたちに伝えられれば。

今井:ところで、ほっしーが教員になったきっかけってなんだったんですか。

星野:もともと出版社で雑誌の編集をしてたんです。ミーハーだったから編集者になったらいろんな有名人たちに会えると思ったんですね。だけど、ジャーナリズムや本作りに対するこだわりや問題意識が全くなかった。だから仕事をしていて、だんだんしんどくなってきたんです。

今井:最初から教員を志していたわけではないんですね。

星野:そう。編集者時代はこうしたい、こう変えたいという思いがないから、当然自分なりの仕事に対するポリシーやビジョンが持てないわけです。だから、やっぱり仕事をするのなら常に問題意識を持てる仕事につこうと思ったんです。じゃあ問題意識はどこから生まれるのか考えたときに、自分の場合は怒りや悲しみといった負の感情なんじゃないかと気づきました。自分が今まで生きてきて、どういうことに対してたくさんの怒りや悲しみを感じてきたか思い返したら、学校教育だったんです。

今井:昔は体罰とか普通でしたもんね。

星野:そう。普通にありましたよね。僕が当時通っていた小学校では、高学年になると運動会で男女に分けられて、男子は上半身裸で騎馬戦と組体操をするんですね。女子は組体操の添え物的な感じでポンポンもたされて変なダンス踊らされて。子どもながらに、その分担の仕方は何?みたいに思っていた。性別によって暴力的に種目を分けられることに、とても違和感がありました。

今井:すごくわかります。僕は中学がそんな感じでしたね。当時はただ嫌なだけだったけど、今思い返すとひどかった。

星野:練習のときも、男子は体育の先生にビシバシ叩かれるわけです。そして本番に"男らしく"成長した半裸の我が子の姿を見て親たちが泣く光景が、心底気持ち悪かった。僕は小学校のときに、そういうノリに全くのっかれなくてしんどかったんです。だから、組体操の練習が始まる5年生になるのがずっと憂鬱でした。でも、そんなことを思っているのは僕しかいないと思っていて、普通の男子はこういうことにいちいち違和感を感じないんだろうなって。だから、違和感を感じている自分は、男として普通じゃないし男失格なんだって思ってました。

今井:"男らしさ"を過剰に強要されましたよね。

星野:そう。中学高校になってもそういうノリは続いていて、学校はとにかく僕にとって生きづらい場所でした。高校の体育祭でも、上半身裸で体操をする謎の種目があって、高校生になってもこのノリから逃れられないのかと思った時はめまいがしました。といいつつも、不登校という選択肢が自分には思いつきもしなかったから、とにかくここでサバイブするために、学校に自分を最適化させなければと思っていました。結果、「実力のある変人」という路線を採用したんです。

今井:もう生きていくために仕方なくですよね。

星野:そう。生きづらさを抱えながらも、それを隠しつつ、男子校のホモソーシャルなノリにも適当に合わせて、エキセントリックな振る舞いをしてみんなの笑いもとって勉強も頑張るみたいな感じで高校生活を過ごしていたので、結構人気はあったんです。

今井:作りキャラなのに人気だったんですね(笑)。

星野:笑えるよね(笑)。だから、卒業文集のランキングで、僕は「ホモだと思うやつ」ランキングにはランクインせず、「もしこいつが女だったら彼女にしたい」と「こいつと将来飲みにいきたい」ランキングでは1位だったんです。最適化が見事成功したわけですね。しかし時代もあったとはいえ、明らかに人権侵害のランキングがまかり通るのを僕は見て見ぬ振りをしたし、保身のためとはいえ「ホモだと思うやつ」ランキングにランクインした人を、みんなと一緒になって笑ってしまった。

今井:わかります。でもそうするしかなかったと。

星野:自分がそのノリにのっかってしまったことへの罪悪感が今でもしこりのように残っていて、忘れられない過去です。僕が多様性教育に取り組む原点には、そういう思いを次の世代の子どもたちにさせちゃいけないという思いと、懺悔の思いがある。学校教育に対する負の感情は、今でも自分の心の中に渦巻いています。今、僕が子どもたちと過ごしていて、こうあってほしかったという教育や教師像を、自分が教員として体現することで、自分自身の子ども時代をもう一度やり直している気がしています。そして結果として、それが社会を変えることにつながっていけばいいいのかなと。

今井:僕はサッカー部出身なんですが、僕が知る限りではサッカー指導者の多くはいまだに保守的で、価値観が古いままなんです。今は週末にサッカー指導者をしているのですが、親御さんの価値観も昔のまんま。変わらないんですね。そういう古い教育的価値観に対して、ほっしーは挑んだんですね。

星野:教員なりたての頃は若かったから、自分が学校を変えてやる!という感じですよね。すごい傲慢で謎の上から目線だったんです(笑)。でも初任校で初めてクラスをもったときに、全然クラスがうまくいかなくて、教員として初めて大きな挫折を経験しました。そこで自分自身を見つめ直して、徐々に自分のあり方を変えていきました。公立小学校で働いていたときに出会った先生たちからは本当にいろんなことを学ばせてもらいました。

今井:意外。ほっしーでも、挫折するんですか。

星野:するする〜(笑)。公立で教員をしていた時は、とにかくしんどかったのは確かです。公務員であるがゆえに、国の教育施策に対して批判的な思いを持ちつつも、定められたことをやらなければならないという縛りがあったので。だからそういう中で自分が信じていることのために、周囲の無理解や無関心と戦いながら多様性教育の実践を進めている先生たちのことを考えると、本当に頭が下がる思いだし、深い敬意を持っています。桐朋小学校だからというのはあるかもしれないけど、校風がリベラルで、実践の自由に対して理解ある職場なのが本当にありがたい。そして、Buzzfeedの記事がリリースされた数日後、この手紙が朝、僕の机の上に置かれていたんです。泣くよね(笑)。

星野:「生と性の授業」をしていた時、実践の様子を書いた学級通信を同僚たちに配っていたんですね。その時は、それほど大きな反応はなかったんだけど、自分の実践を知ってもらうことが大事だと思っていたので発信し続けていたんです。

今井:発信し続けることで、深く共感し理解してくれる人が出てくるんですね。

星野そう。自分の教育実践を信じて発信し続けることは、あきらめずに何かに火を灯し続けることに似ていて、この手紙をもらえたときには「あぁ、やっと火がついた!」と思いました。教員になってから、学校のあり方を変えよう、新しい学校教育を作ろうと教育に真摯に向き合っている先生たちにたくさん出会えました。今の職場にもそんな先生たちがたくさんいます。だから、思いを共有できる先生たちと一緒に、これからの教育を作っていきたいんです。

取材当日、ほっしーは学校の正門で「あ、どうもはじめまして。今日はよろしくお願いします〜」と飄々とした口調で出迎えてくれた。握手したときに、彼の手の爪がなぜかマジックで真っ赤にぬられ、甲にもキャラクターの落書きがされていることに気づく。

思わずじっと見ていると、「あぁ、これ?子どもたちがネイルしてくれたから爪が真っ赤なんです。で、これはクラスのゆるキャラのチーコック(笑)」とほっしーは笑いながら答えた。ほうきでエアギターをしている人物と同じと思えないほど、柔和な空気をまとった人がそこにいた。

しかし、インタビューが始まり教育について語り始めると、ほっしーの語り口は徐々に熱を帯び、時に厳しいものになる。その時、目の前にいる穏やかなほっしーの中に、ほうきのギターをかきならす激しさが秘められていることに気づく。

自分の負の経験や感情を原動力にして、多様性教育の新たな境地を開拓していくほっしー。 そんな彼の教育実践を、これからも注目していきたい。

(撮影:

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