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Year in Review -LGBTニュースから振り返る2018年-開催レポート

2018.12.28

2018年を振り返って、印象に残っているLGBT関連のニュースは-?そう尋ねられたとき、多くの人が真っ先にあげるのは7月から10月にかけておきた杉田水脈議員の『新潮45』への差別的な寄稿を発端とする騒動だろう。しかし2018年は、そのほかにもLGBT関連の話題に事欠かない1年間でもあった。

では一体どんなことが起き、どのように取り上げられてきたのだろう。1年間の総まとめとして、12月15日、一般社団法人fairが「Year in Review -LGBTニュースから振り返る2018年-」を開催した。

(リポーター:中野 里穂)

<登壇者(敬称略、左から)>
杉山文野(トランスジェンダー活動家)
藤井ひろみ(神戸市看護大学准教授)
鈴木賢(明治大学法学部教授)
上川あや(世田谷区議会議員)
司会:松岡宗嗣(一般社団法人fair代表理事)

第一セクションでは、司会の松岡氏を中心に2018年を以下の通り振り返った。

1月
・NHKテレビドラマ「女子的生活」
・「広辞苑」改訂版にLGBT
・テレビドラマ「隣の家族は青く見える」
・国立市アウティング禁止条例成立

2月
・厚労省、同性カップルの宿泊拒否に配慮規定

3月
・世田谷区差別禁止条例成立
・「弟の夫」ドラマ化
・第2回レインボー国会開催
・三重県で高校生1万人を対象にLGBT関連調査
・中学校の教科書でLGBTが取り上げられるように

4月
・性別適合手術に対する公的医療保険の適用開始
・福岡県福岡市でパートナーシップ制度施行
・テレビドラマ「おっさんずラブ」
・大阪府同性カップル訴訟

5月
・TOKYO RAINBOW PRIDE 2018
・勝間和代さんカミングアウト

6月
・パートナーシップ制度一斉請願 夏の陣
・WHOが「ICD-11」発表。性同一性障害は「性別不合」に
・一橋大学アウティング事件裁判、遺族と学生が和解

7月
・お茶の水女子大がトランスジェンダー学生の受け入れを発表
・相続に関する民法改正、同性カップルは含まれず
・大阪市でパートナーシップ制度施行
・名古屋市同性カップル遺族給付金裁判
・杉田水脈議員が新潮45に「LGBTは生産性がない」などと寄稿
・自民党前抗議デモに約5000人集まる

8月
・自民党が声明「LGBTに関するわが党の政策について」を発表
・ロバート・キャンベルさんがカミングアウト
・東京都中野区でパートナーシップ制度施行

9月
・プライドハウス東京キックオフ
・新潮45杉田水脈擁護特集
・新潮社社長が声明を発表
・『新潮45』休刊を発表

10月
・東京都人権尊重条例が成立
・TOKYO LOVE PARADE
・杉田水脈議員が声明を発表

11月
・神奈川県横須賀市が来年5月にパートナーシップ制度を導入予定と発表
・「同性婚訴訟」来春にもスタート
・台湾で同性婚をめぐる国民投票
・東京都府中市が来年4月にパートナーシップ制度を導入予定と発表

12月
・熊本県熊本市が来年4月にパートナーシップ制度を導入予定と発表
・野党6党派が「LGBT差別解消法案」を国会に提出
・増原裕子さんが来年の参院選に出馬予定
・第3回レインボー国会開催

(出典:『LGBT NEWS 2018』一般社団法人fair より)

松岡:杉山文野さんといえばTOKYO RAINBOW PRIDE(以下TRP)の方、という印象を持たれている人も多いですよね。その立場としてこの1年を振り返っていかがでしょうか。

杉山:2018年のTRPは15万人の方に来場いただきました。特に今年は浜崎あゆみさんにゲストとしていらしていただいたことのインパクトが大きかったですね。

ビッグなアーティストに来ていただいたことで「LGBTは知らなかったけどあゆのファンだから来ました!」という人に知っていただくきっかけにもなったし、民放でもTRPを長い尺で取り上げてもらうことができた。エンタメを使ってLGBTについて知っていただくいい例になったかなと思っています。

2012年の開催当初は4〜5000人の参加者だったんですが、今年はその30倍。運営している自分たちも追いつかないくらいのスピード感なので毎年課題もありますが、(パレードなどの)発信力が高まってきたからこそかもしれません。

松岡:個人的には、ベビーカーを押した人が代々木公園から一緒に歩いていたのが印象的でしたね。「このパレード、TRPのものなんですよ」と説明すると、「え、そうなんですか!知りませんでした!」という反応が返ってくることもある(笑)。タイフェスのように気軽に参加してもらえるようになったのかなと思っています。

藤井:私は勝間和代さんのカミングアウトについて触れたいと思います。女性のセクシュアルマイノリティがメディアに登場することはまだ少ないんですよね。顕在化しにくい。だから5月にあった勝間さんのカミングアウトは画期的だし、ものすごく勇気のいることだっただろうなと。

そしてロバート・キャンベルさん、同志社大学教授の岡野八代さんがそれに続く形になりました。続けてカミングアウトする人が現れたのは、「(カミングアウトした)彼らを一人にしない」という思いが顕在化したからだと思っています。

松岡:勝間和代さんはインタビューなどで、過去のカミングアウトのしにくさについても触れています。当時と今で、カミングアウトのしやすさもかなり違うと思うのですがいかがでしょうか。

藤井:私は現在はバイセクシュアル、もともと昭和のレズビアンかな…(笑)。年を重ねていく人間にとって、"当時"と今はひと続きです。

WHOが同性愛を疾患から外し、日本でそれが受け入れられたのは1995年。それ以前の雰囲気を知っている人にとっては"異常性愛"という言葉が頭に残っています。(LGBTがメディアで取り上げれらることなどが)当たり前にある現代に育った人とは違う感覚があるかもしれませんね。

ただ、時間は連続しているので、「今の世代」と「当時の世代」が隔絶しているとは思っていません。この会場を見ても年齢的にたくさんの人がいるのは、それぞれがそれぞれの方法でサバイブしてきたからなのだと思っています。

松岡:松岡:鈴木さんは、1年を振り返っていかがでしょうか。

鈴木:自治体のパートナーシップ制度が広がったのが今年の成果だと思っています。今のところは9自治体ですが、来年はおそらくもっと増える。ドミノ現象がようやく来年見られるのかなと期待しています。

必ずしも順調な自治体ばかりではありませんが、議会でLGBTや同性愛を話題としてあげて議論できるようになったことは大きな変化ですね。

松岡:上川さんはいかがでしょう。

上川:私にとっては、今年の3月2日に世田谷区で「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」を成立させられたことが一番の思い出ですね。

現在、日本国内でLGBT差別を禁止する条例が施行されているのは、いずれも東京都内の4区3市で他の道府県にはありません。2003年にも宮崎県都城市で「性的指向に対する差別を禁止する条例」が成立したのですが、激しいバックラッシュから施行の2年後には削除されてしまっています。

現在は消されることなく類似の条例が増えつつあり、東京都でも差別を禁止する条例が成立。来春、全面施行の予定です。今後もLGBTに配慮ある条例が増えていくだろうと思っています。

松岡:良い流れがあった一方で、杉田水脈氏の寄稿がきっかけとなり、騒動も起きました。そのことについてはみなさんいかがでしょうか。

上川:新潮45への寄稿が発端となり、自民党前での抗議活動が起こりました。あの場には、普段、政治や運動には、あまり関心が持てなかった人たちが多く参加していたのが印象的でした。社会と自分たちのありよう、既存の政治への意思表示結びついてスパークしたあの瞬間は今後の転機になるのではないかと感じましたね。

鈴木:杉田水脈氏は、一定の属性を持つ人を低く評価しても良いのだ、それによって税金の投入について決めるべきだと言っていました。その発言に対し、LGBTだけではなくさまざまな人が怒りを共有してくれたのです。自民党前に数千人が集まったあの晩、ようやく日本も変わり始めるという希望を持ちました。

藤井:国会議員という立場である杉田氏が「生産性がない」などと発言したことは、LGBTに関する法整備のされていない日本だからこそ起こったことなのではないかと思っています。

しかし、整備がされていない中で人間同士が情報拡散をし、声を上げるために集まった。集まれなかった人も、報道を通じて心を強くしたのではないでしょうか。こうやって声をあげればいいんだ、ということを多くの人が共有できた。あの一件を通じて、さらに賢くなれたし経験値が上がったと思っています。抗議をしたことは画期的でした。

杉山:僕も、結果的には良かったと思っています。傷ついた方もたくさんいる中で一概に「良かった」と言うのもはばかられますが、今までは議論の土俵にすら上がれなかったLGBTの問題がこれだけ話題になりましたからね。

話題に上がるようになったばかりなので、勘違いが生まれることもあると思います。それでも議論無くして前には進みませんから、良い意見も反対意見もぶつけて前に進むのが大切だなと感じた出来事でした。

松岡:ある問題や課題に直面したとき、自分の正義とは違う正義を持った相手と、対立するのか、戦略的に抗議するのか、抗議しないのかは人それぞれのやり方がありますよね。

杉山:自分が正義だと思っている人たちが対立したときにどう言った形で進めていくのがより良いのかは、まだまだ話し合う必要が多いなと感じますね。

藤井:杉田水脈氏の件に関しては、「傷ついた人がいる」という言い方がよく出てきます。しかし私はみんなおしなべて傷つけられたと思っています。傷ついたことを自覚できる状況にいる人と、自覚できない、自覚してはいけない人など…。おかれている状況はさまざまです。

それを踏まえてどのような声の上げ方をするかは、答えがいくつもあります。実際に抗議をしてみて初めてわかる感情もあれば、抗議をしてみたけれどすごくしんどくなってしまうこともあり得る。何が正解かは私もまだわかりませんが、今年「抗議」という方法を選んだことには意味があると思っています。

上川:私も、杉田さんの発言には、ハッキリと異を唱えなければいけないと思いました。でも、「自民党は我々の敵だ!」という十把一絡げの考え方は不適切だとも思っています。

自民だけで安定多数の議席を占めるなか、野党だけに頼るロビイングは非現実的です。「自分たちとは意見が違うから」とはじめから向こうに追いやるのではなく、その中にも"理解できる人がいる"という可能性に気づき、広げていくことが重要だと考えます。

鈴木:一連の抗議活動に反する批判は、LGBTコミュニティ内でも上がってきます。日本人は抗議やデモに対するフォビア(嫌悪)がありますよね。私は法律の教師なので"権利は戦って獲得するもの"というのは当たり前で、戦おうとする姿を見せるとそれを批判する人が出るというのは思ってもみませんでした。

今回の件を通して、欧米型の運動とは違うものを探していかないとゴールにはたどり着けないかもと感じましたね。戦わない訳ではありませんが、"戦い方"は考える必要があるのだと学びました。

「性が多様であることは当たり前という社会を作りたい」。
「LGBTもそうでない人と同じ価値を持っているということを法律で示したい」。
「『こうあるべき』の押し付けではなく、『こうありたい』を実現できる社会にしたい」。
イベントは、登壇者が来年の抱負を述べて幕を閉じた。

1年を通してLGBTに関する多くのトピックスが取り上げられた2018年。前向きなニュースはもちろんのこと、多くの人々を傷つける発言も大きな話題となった。一方で、登壇者の発言は一様に前向きで、差別的とされる発言に対しても「日本が変わっていくキッカケになった」と口を揃える。

2018年の"キッカケ"を皮切りに、2019年は良いニュースが数多く取り上げられることを期待したい。

(撮影:星野 泰晴

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