%e6%96%b0%e4%ba%95

性の境界を生きる漫画家、新井祥が描く理想の社会

2018.12.26

男性でも女性でもなく中性として生きる新井祥さん。

映画「性別が、ない! インターセックス漫画家のクィアな日々」 の原作者であり、人気エッセイ漫画家でもある。 インターセックスであることを公言し、ご自身の体験を元に漫画を描く人気作家だ。

"インターセックスとは、医学的には性分化疾患(DSD)と呼ばれる。男女どちらかで統一される性器や性腺、染色体の性別があいまいだったり一致しなかったりする疾患。性自認は男・女とはっきりしている人もいるが、新井のようにどちらでもない『中性』を選ぶ人もいる"

(引用:映画『性別が、ない! インターセックス漫画家のクィアな日々』公式サイト)

「性別が、ない!」 の初版は2005年。現在と比べてLGBTQ+、インターセックス(DSD)についての理解も浅かった時代に、コミカルな内容が人気を博した漫画だ。

インターセックス(DSD)であることで、生きる上で様々な困難があったのではないだろうか。しかしながら、なぜこんなにもユーモアたっぷりに描けるんだろう?

どのように世の中をみているのだろう?

そんな疑問を解消すべく、思い切って新井祥さんに取材を申し込んだ。

(インタビュアー:今井)

今井:ゲイやレズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの性的指向(好きになる性)については近年少しずつ理解が広まっています。一方でインターセックス(DSD)のような体の性の発達については言葉としても知られていないし、誤解されている部分もありますよね。

「学校では教えてくれない「セクマイ」の話」/ (C)新井祥/ぶんか社

今井:新井さんはインターセックス(DSD)を中性と表現されています。つまり身体の性が典型的とされる男性・女性の枠に定まらないということだと思うのですが、生活をする上で困ることってやっぱりたくさんあるんですか?

新井:トイレや公共浴場でどちらを使うか迷いましたが、怒られなさそうな方…と考えたら男性用を使うしか選択肢がなかったですね。

今井:確かにトイレや公共浴場ってはっきり男女区別されてますよね。

新井:特にお風呂は困ってしまいましたね。女性の外見で暮らしていた頃は、髭やすね毛が濃くなって、胸も手術でとってしまった自分が入ってしまったらみんな驚いてしまうだろうし(笑)

今井:新井さんの漫画を読んでいると、ご自身のセクシュアリティに対して自然体で向き合って描かれている印象を受けます。それは意図的なものなのでしょうか?

新井:意図的にはできないですね。自然と内から出てきた言葉を書いているので…。だからたまに矛盾してたり、数年前と逆の意見を言ってたり、ごく普通の異性愛者のような発言をすることもあります。

今井:性に対する不寛容な現状をとてもコミカルに描かれていますが、あえてそのように描く理由はあるんですか?

新井漫画の中でもコミカルな漫画やエッセイコミックはどんな人でも読めるんじゃないかな?と思うタイプなので、笑いの手段をとってます。怒りながら言われると聞けない人でも素直に「あ、これ自分も該当してるかもしれん…」と思ってもらえるんじゃないかなって。

今井:差別や偏見をなくさなければという思いが強ければ強いほど、熱苦しくて、押し付けがましいものになりがちだと思うんです。新井さんのユーモア溢れる漫画がこれだけ話題になるのは、単純に面白いからだと思うんです。その中にメッセージが散りばめられていますよね。例えば、このユニセックスウェアの話は親しみやすくて面白かったです。

「学校では教えてくれない「セクマイ」の話」/ (C)新井祥/ぶんか社

新井:ありがとうございます。みんな気にせず子供のうちから着てるものなんですよね、ユニセックスな服。

今井:普段意識することはないのですが、漫画を読んでいて、男性なのか女性なのかを問われる場面って何気ない生活の中にたくさんあることに気がつきました。

新井:たくさんありますよ!ちょっとした書類の性別の表記から就職・結婚などの人生の大きな選択肢まで、一生つきまとうものです。性別に問題のない人は生年月日を書くのと同様に気にせずやり過ごしているってだけです。

今井:インターセックス(DSD)と判明するまで、どんな違和感を感じておられたのでしょうか?  

新井:「男性ホルモンが多いよな、自分…」というのは子供の頃から感じてました。でもそういう女の子ってたまにいるものだから、特に気にすることもないだろうと正直甘く見てました。

今井:ホルモンバランスによって男性的になったり女性的になったりっていう描写には正直驚いてしまいました。そんなことがあるんだって僕、全然知らなくて。

新井:男性は加齢しないとあまり実感しない問題かもしれませんが女性はホルモンが揺れ動きやすいので、自分ほどの変化はなくとも多少の男性化は経験してるんじゃないでしょうか。

今井:ご結婚を経験されてますが、結婚生活の中でジレンマのようなものはあったのでしょうか?

新井:同世代&年上の女性読者から「努力すれば子供も作れるかもしれないから女らしくすることを諦めないで!」「夫のために頑張って子作りしなきゃダメ!」という励まし(だと当人たちは思ってる)メッセージの山が届いていた時は、まだまだ日本では多様な生き方は認められていないんだなと感じました。

今井:女性としての生活を捨てて、男性としての生活にシフトしたという記事を読みました。

新井:30歳の時に女性ホルモンの分泌量が減った時、心も体も男性化の兆候が出てきたので病院に相談に行ったのが始まりでした。最初は話題になり始めていた「性同一性障害とやらかな?」と思ったんですが、心療内科や婦人科では「精密検査を受けたほうがいい」と言われて内分泌科の病院へ…。

今井:精密検査…。ちょっとドキッとしますね。

新井:そこで染色体異常、ホルモン分泌異常があるのがわかったんです。「MTFの方がされているような女性ホルモン投与などをしない限り女性的な外観に戻る可能性が低い」「子供を作るのは非常に難しい」という診断を受けて色々考えた結果、開き直って男性として生きていくことにしました。 おじさんとおばさんでいったら「どちらかというとおじさん」になる未来を決意したんです。

今井:男性として生活すると決めてから、実際にどのような変化がありましたか?やはり違和感がクリアになった感覚はあったのでしょうか?

新井:違和感はクリアになりました。ただ女性ホルモンが圧倒的に足りないことへの不安感は強まりましたね。なんとかしないと早く老いてしまうかな…と怖くもなりました。父も祖父も薄毛なので、そういう意味での不安も生まれました(笑)

今井:確かに早く老いるのはちょっと嫌ですね(笑)

新井:なるべく若くいられるように頑張ってます。とくに毛髪ケアを…(笑)

今井:なるほど(笑)性別を気にされる事はあるのでしょうか?

新井:よく気にしますよ!中性のくくりの中でも「男っぽい」「女っぽい」はあるので、どちら寄りで見られているかは常に気にかけてます。主に服やしぐさ、髪型、しゃべり方とかの上で似合わないことをしていないかどうかを意識しています。誰かの真似をできたら楽なんですが、ロールモデルがあまりいないので…

今井:確かに、もはや新井さんがロールモデルですよね。

お仕事風景

今井:新井さんはどんな人に魅力を感じるのでしょうか?

新井:いろんな意味で気づかいが出来る人に魅力を感じます。自分と関係ないもの、関係ない社会問題にも目を向けられる、同情できる人。わかろうと努力する人。そういう人って心が豊かでいいなと思います。

今井:セクシュアリティに関わらず、今の日本には性別に捉われず、自然体で生きている人が少ないと感じます。どうすれば自然体で生きることができるようになると思いますか?

新井:女性としての生活から男性としての生活に変わった頃、自分は自然体のつもりでいたけど戸籍と違うパンツをはいてるだけで「不自然だ、たとえ髭が生えてても女物をはかないと変だ」とよく言われました。でも今そんなこと言う人がいたらその人のほうが不自然ですよね(笑)自然体の定義って時代によって変わっていくので、へこたれないでいれば「常識」が自分に追い付いてくれるかもしれません。

今井:最後に、新井さんが理想とする社会ってどんなイメージでしょうか?

新井"勘がいい鈍感人間が多い世界"ですね。"矛盾してるように思えるかもしれませんが…。10代のうちは勉強よりも勘づく力を鍛えた方がいいとすら思います。みんなが「あ、これ言わない方がいいな」とか「これは傷つく人が出るかも」という勘を働かせるよう努力する。それでも取りこぼしてしまった場合は鈍感力を働かせてむやみに傷つきすぎない、傷ついた事を盾に他人を傷つけない。そんな社会が理想ですね。でも鈍感な人が多いと人は甘えて他人を傷つけるようになるから、調節が難しいですよね、きっと。

新井さんが最後に話してくれた"勘がいい鈍感人間が多い世界"という言葉が印象に残っている。

これまで"多様な性"をテーマにいくつもの作品を描いてきた新井さんだからこそ紡ぎ出せる言葉なのではないだろうか。新井さんの描く漫画に勇気をもらい、救われた人間はきっとたくさんいる。

そして世の中にはまだ、"普通"と違う自分に悩み、苦しんでいる人が大勢いる。 そんな人に、新井さんの漫画を手にとってほしいと思う。

FOR YOU

MORE