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Palette編集部による教科書比較!私たちがおすすめする高校家庭科教科書はこれだ!

2018.10.11

近年、多様な性のあり方がメディアなどで取り上げられるようになった一方、その流れから少し遅れをとっている教科書たちがある。

保健体育の教科書では、私たちは思春期には異性に興味を持ち始めることになっていて、LGBTQ+の人たちはないことにされている。

いまだに異性愛中心主義が強い日本の学校。そんな中でもある教科では、積極的に多様なせいのあり方を紹介し、LGBTQ+に関する知識を盛り込んだ素敵な教科書が使用されるようになった。それが、家庭科だ。 今回調べてみると、いくつかの出版社の作る家庭科の教科書は非常にインクルーシブであることがわかった。

そこで今回は、Palette編集部独自に、家庭科教科書を比較してみることにした。

(対談 : 伊藤 × 中野)

伊藤 : まず、高校の家庭科は、単位数に応じて「家庭基礎」と「家庭総合」の2つのカリキュラムがあります。家庭基礎では12、家庭総合では7つの出版社が教科書を作っています。

中野 : その中で、LGBTQ+はじめ多様な性のあり方に言及しているのは?

伊藤 : 実教出版、開隆堂出版、そして東京書籍の3つですね。全て2016年に検定されたものです。

中野 : 少ない…。

伊藤 : 冊数はさておき、さっそくそれぞれがどんな内容なのか見ていきましょうか。

伊藤 : まず、実教出版の「新家庭基礎21」。青年期の性的自立について説明している部分では、ジェンダー・アイデンティティーを確立することについてこのように書かれています。

「人間として、女性として、男性としてどう生きていくのか、さらにからだや心の性的な成長を肯定的にとらえて、安全と信頼にもとづく人間関係として、だれといつどのような形で性的な関係を持つのか持たないのかを自己決定できるようになること」(実教出版『家庭基礎21』P.16より)

中野 : 「人間として」という言葉や、性的関係を持つことを前提としていない書き方がいいね!

伊藤 : 欄外の参照部分にはアセクシュアルの説明もされてます。

中野 : 確かに、保健体育の教科書のように「思春期になると異性に必ず興味を持つ」と言われると「異性じゃない場合もあるよ!」と言いたくなるよね。けれどそもそも興味を持たないひともいるから、教科書でそれを取り上げるのは大切だしありがたいね。

伊藤 : そして実教出版の目玉はP.136をメインに、"多様な生き方"を説明しているところなんですよ。

中野 : 「性的マイノリティはすぐ側にいる」というテーマのコラムも掲載されていて、電通総研のデータも引用されているね。

「2012年電通総研の調査によると、性的マイノリティの全人口に占める割合は5%となって40人のクラスなら2人は存在することになる」(実教出版『家庭基礎』P.136より)

中野 : 実際の数字をクラスに当てはめて書いてくれると、実感を持って考えることができるからすごく良いと思った。ただ、性的マイノリティの割合は5%(2012年)と記載されているから、ぜひ調査データを最新の7.6%(2015年)にアップデートしてほしいな。

伊藤 : 他にも、性的マイノリティの説明として、同性愛者や性分化疾患、性同一性障害の細かい説明があるのはすごいですよね。

中野 : 自分のセクシュアリティに悩んでる思春期の若者が読んだらなにかヒントになるかもしれないね。

伊藤 : でも、逆にバイセクシュアルについては記載がないし、性分化疾患について"性的アイデンティティ"と同じ問題だと誤解を招いてしまいそうな書き方をしていますよね。

中野 : たしかに、それらは分けて記載してある方がいいのかも。ところでこの部分、ちょっと変じゃない?

「事実婚は婚姻届を出さないが、夫婦のように生活を送っている関係。同じく同性婚は、同性同士が夫婦のように暮らしている関係」(実教出版『家庭基礎』p.133より)

中野 : 夫婦のように暮らしている関係は、同性婚ではなくて同棲じゃないかな?

伊藤 : 本当だ。事実婚は、大きな制限がありながらも一部法律婚と同じように認められる権利があるけど、同性婚はそれがない。同性婚が認められてない日本では同性婚をしている人はいないはずですよね。同性のカップルが"夫婦のような生活"を送るだけでは、結婚で得られる権利は全然得られないのに、まるで結婚と同等みたいな書き方…。ここは家族に関する法制度について説明している章だから、同棲と同性婚をあいまいにせずに丁寧に権利の問題として書いてほしかったです。

中野 : そこがあいまいだから、同性パートナーシップ制度ができたことで結婚もできるようになったと勘違いする人が続出するのでは…。あ、でもこれはすごくいいね!「性的マイノリティだけでない自己決定権の問題」というコーナー。

伊藤 : そうなんです。このコーナーでは高齢者の性や障がい者の性、児童婚といった問題まで視野を広めた内容が、見開きで説明されていますね。性の自己決定権というと、女性についてや、LGBTQ+についてばかりが注目されるけれど、それ以外にも着目している点が良いと思います。

中野 : 確かに、障がい者の性とか、今まで学校で教わったことはなかった気がするけれど、大事なことだよね。

伊藤 : 以上、実教出版『新家庭基礎21』でした!

伊藤 : では次は、開隆堂出版の『家庭総合 明日の生活を築く』です!

中野 : 見て!この性的アイデンティティについての説明がすばらしい!

「自分らしい性といった場合、実際には、「身体の性」の他、自分の性をどのように認識しているかという「性自認」、自分自身の性をどのように見せたいかという「性表現」、どういった性別の人を好きかという「性指向」の組み合わせによって性はとらえることができる。つまり性のあり方は非常に多様なのである」(開隆堂出版『家庭総合 明日の生活を築く』P.15より)

伊藤 : すばらしい…。性のグラデーションについてわかりやすいし、決して異性愛を中心とした性的アイデンティティを前提にしていないところがとても良いですね。

中野 : 「多様な性」という参考のところで、"LGBT"という言葉が使われているのもいいね。実教出版は"性的マイノリティ"という言葉だけだったから。性分化疾患について触れながらも、LGBTとは分けて並べているところにも配慮を感じる。

伊藤 : しかも、"マイノリティ"という言葉を、きちんと「単に数の問題ではなく、差別や構造の問題によって社会的に弱い立場にある人」と説明しているところがとても良いです。

中野 : この、性同一性障がいに関する記述も、すごく当事者に寄り添った書き方だよね。

「性同一性障がいとは「身体の性」と、自分の性をどのように認識しているかという「性自認」とが一致せず、強い違和感をもち、日常生活でも困難を感じる状態をいう」(開隆堂出版『家庭総合 明日の生活を築く』P.15より)

伊藤 : ここまでが、開隆堂出版『家庭総合 明日の生活を築く』です!

伊藤 : さて、次でラストです。東京書籍の『家庭総合 自立・共生・創造』。

中野 : え、どこにあるの…?あ、ここか、少ないね。

伊藤 : さまざまなライフスタイルの例として、「結婚はどのような形か」、「どのような親子関係か」、「どのようにして収入を得るか」、「誰と暮らすか」、に続いて「自分の性と生きる」というふうに並べられています。

「性愛の対象が異性以外(同性、両性)のこともある。体と心の性が一致しない性同一性障がいの場合、条件を満たせば戸籍上の性を変更することができる」(東京書籍『家庭総合 自立・共生・創造』P.25より)

伊藤 : 性の多様性についての記載はここぐらいですね…。「自分の性と生きる」ことって、ライフスタイルの問題なのでしょうか…。

中野 : しかも、この「性愛の対象が異性以外(同性,両性)のことある」という表現。すごく異性愛中心の目線から書かれているよね。開隆堂のニュートラルな書き方とは正反対。

伊藤 : 性同一性障がいについての説明も、開隆堂の当事者に寄り添った表現とはだいぶ印象が違います。もし自分が悩んでて、こういう目線の記述を読んだら、なんかやっぱり自分はおかしいのかも、と思ってしまうと思います。

中野 : 記載されただけでも大きな一歩だとは思うけど、正直もう少し踏み込んでほしかったな。LGBTQ+は決して社会の「例外」なんかじゃないのだから。

伊藤 : というかここ、なんだかすごくないですか?

「TRY 結婚相手としてどんな人がよいか、クラスで出し合おう。なぜ、その条件が大切だと思うのか。男性と女性ではどんな特徴があるだろうか」(東京書籍『家庭総合 自立・共生・創造』P.22より)

伊藤 : なんで結婚することが前提なの?!

中野 : そう感じられる書き方だね…。さきほど取り上げた実教出版では、個人の多様さを認めることは、「個々の性行動や結婚、さらに生む・生まないという選択の権利」(P.17)を保障するためにとても大切だという説明が丁寧にされていたので、対照的なイメージを抱くね。

伊藤 : そうかもしれませんね。以上、東京書籍でした。

中野 : 同じ科目の同じテーマについてでも、ここまでいろんな差があったのは興味深かったね。改めてそれぞれの教科書を見てみようか。

伊藤 : 中野さんがもし自分の性的アイデンティティに悩む高校生だったとしたら、どの教科書と出会いたかったと思いますか?

中野 : うーん、開隆堂出版では、多様な性を説明するコーナーで東小雪さんと増原裕子さんカップルの結婚式の写真が掲載されていたよね?あれを見たら、現実にこういう人生を歩む人がいるのか!と思えて、勇気を持てたと思う。

伊藤 : 今後、LGBTQ+の人もいるよ!という表現からさらに一歩先に進んで、性とはそもそも多様に広がるものなんだよ!普通なんてないんだよ!というメッセージまで伝えられている教科書が増えたらいいですね、その上で権利の問題にまで踏み込んでいたら、より良いのではないかと思います。

思春期に自分のセクシュアリティについて悩みはじめるLGBTQ+の若者は多い。得られる情報もコミュニティも大人に比べてまだまだ限られている彼らが、自分の存在をきちんと表現してある教科書に出会えたら、どれだけ助けになるだろう。

近年少しずつ増えつつあるLGBTQ+についての表記。しかし、当事者に寄り添った内容を盛り込むこと、多様な生き方についての記載を増やすことなど、できることはまだまだありそうだと考えさせられる機会となった。

参考文献
・実教出版、『新家庭基礎21』、2017
・開隆堂出版、『家庭総合 明日の生活を築く』、2017
・東京書籍、『家庭総合 自立・共生・創造』、2017

注 : 本記事はPalette事業部が独自に調査を行い見解を述べたもので、教科書の内容の正誤について言及したものではありません。

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