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「誰ひとり取り残されないために。」niji VOICE 2018レポート

2019.01.16

もしもすべての職場で、多様性が尊重され、誰もが働きやすい環境が実現されたら。 しかし現実は、性の多様性が尊重される職場は少なく、LGBTQ+当事者の多くが差別やハラスメントを受けている。

誰もがいきいきと働くことのできる職場環境をつくるため、NPO法人虹色ダイバーシティは、2014年からウェブ上でアンケートを行っている。4回目となる2018年のアンケートでは、過去最多の2,348人が参加した。 12月16日、国際基督教大学において調査報告会が開催された。

(リポーター:伊藤 まり)

登壇者(敬称略)
■国際基督教大学ジェンダー研究センター(以下CGS)センター長 高松香奈
■ワシントン大学大学院社会学研究科博士後期課程・CGS研究員 平森大規
■国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部室長 釜野さおり
■金沢大学国際基幹教育院准教授 谷口洋幸
■LGBTとアライのための法律家ネットワーク代表理事 藤田直介
■特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティ代表 村木真紀

働くということは、現代の社会では生活するためにとても重要なことだ。多くの人が一日の大半を職場で過ごす。そのような「働く環境」をめぐって、最近ハラスメントへの批判や働きやすい職場づくりについての議論が盛り上がっている。

初回のアンケート実施から4年の間、パートナーシップを導入する自治体が生まれるなどLGBTQ+に関する理解が進んできたように感じることもある。しかしいまだにLGBTQ+の当事者が多くの困難を抱えていることが、今回のアンケート調査からわかってきた。

(※今回の調査はオープン型ウェブ調査で、回答者は無作為抽出された集団でないため、統計的推測をすることはできない)

まずは、LGBTQ+当事者のかかえる経済的な問題の深刻さがアンケートで明らかになった。
回答者のうち、出生時の性が女性でトランスジェンダーである人たちは、年収が200万円未満である割合が高い状況にある。

また、仕事をしていない割合もトランスジェンダーで高く、そのうちの25.3%が心身的な理由だと答えている。

貧困の状態に陥る大きな要因として、非正規雇用が考えられるが、LGBTQ+の非正規雇用で働く人の割合は、厚生労働省が出した全国平均よりも高くなっている。

全国平均の25~35歳で13%、35~45歳で 18%と比較しても、LGBTQ+当事者の非正規雇用の割合の高さがわかる。

職場でSOGIについての差別的な言動を見聞きする回答者は多い。内容としては、「誰かが同性愛者なのではないかと噂をする」といったものから、「男/女らしくしろ」などジェンダー規範を押し付けるものなどが上げられた。

またこのような発言に対する、当事者と非当事者との感度のギャップがあることがわかる。「差別的言動が頻繁にある」と回答したLGBTQ+非当事者は約30%だが、当事者では50%にのぼった。

村木さんによると、このようなハラスメントを見聞きする度合いは、回答者の属性によって変わるという。

たとえば、「誰かが同性愛者なのではないか噂をする」ということについては、LGBの35%が見聞きすると回答しているが、トランスジェンダーでは29%、シスジェンダーヘテロセクシャルでは22%と低くなる。反対に、「女/男らしくしろ」という言動に関してはトランスジェンダーの人が一番見聞きしていると回答していることがわかる。

村木さんはこの理由について、次のように述べる。
「属性によって見聞きする度合いが変わるというのは、同じ言葉でも嫌だと感じるかどうかが違うからなのではないでしょうか。アイデンティティに関わるところは非常に敏感にでてきています。いずれにしても差別的言動はまだまだたくさんあるのだ、ということが今回のポイントだと思います」

そうしたなかでも、職場においてLGBTQ+施策を行う企業は、徐々に増えてきているようだ。2016年の調査では勉強会などの啓発イベントがあると答えた回答者はLGBで7.6%、Tで5.9%だったところ、今年はLGBで14.4%、Tで10.9%に増えた。

また、勉強会などの施策数が増えることで職場環境がよくなる、ということを示唆する結果も見られた。施策を2回以上行っている企業では、働きやすさや、心理的安全性(職場で安心して働けるかどうか)が高いのだ。

村木さんは次のように語る。
「1回研修しただけだと、『自分がそうだと疑われるのではないか』と不安になったり、『会社がなにかやり始めたけど本気なのか疑わしい』など、当事者から否定的なコメントがあがることがあります。しかし、取り組みを積み重ねることで、心理的安全性や働きやすさが高まっていくのですね。これは私自身がコンサルタントとして働いている実感とも合致する傾向です」

金沢大学の谷口先生は、国際的な指標としてのデータの重要性を指摘した。
2011年に国連人権理事会では、SOGIに関する人権決議が採決され、また同じ年にビジネスと人権原則指針というものができ、国際社会からも、民間企業での取り組みの促進が求められている。
しかし、日本にはLGBTQ+の当事者についての公式なデータがないために、国際社会でどのような位置づけにあるかすらわからないのだ。
国レベルで正確なデータを集め、現状を把握すること。そしてそのデータに基づいて施策を提言していくことが重要だという。

一方で、民間のアンケートならではの強みもあると、ワシントン大学大学院社会学研究科博士後期課程・CGS研究員の平森さんは述べる。
国レベルのアンケートでは、年収などのデータは正確に集められたとしても、当事者が実際に直面している具体的な問題がこぼれ落ちてしまうからだ。
「仮に将来、政府がアンケートを始めたとしても、このデータがいらなくなるわけではありません。どのような差別を受けたか、それがどうメンタルに影響したか、そういうことは国は聞くことはできないでしょうから。だから両方あるといいんじゃないかなと思います」と平森さん。

安心して働ける職場では、従業員のパフォーマンスが高いという。企業にとっても、多様性を尊重した職場を作ることは重要な課題だということだ。しかし、ただ企業にとっていい効果があるから性の多様性を尊重するべき、ということではない。”身も心も安全に、いきいきと働く”ということが、誰にとってもあたりまえに保証される社会を目指さなくてはいけないのではないだろうか?

LGBTQ+当事者がミングアウトをすることのハードルがまだまだ高い日本社会では、当事者たちの直面する困難や差別、ニーズは見えにくくなってしまっている。このようなアンケートを積み重ねることで、当事者が具体的にどのような困難を抱えていて、どのような取り組みが必要なのかがわかってくるという。

「誰一人取り残されないためには、誰がどの程度取り残されているのか、を特定しなければいけないのです」。村木さんはそう締めくくった。

(撮影:星野 泰晴

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